大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和42年(ワ)59号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(8) 本件事故により原告が同主張のような傷害(編注・顔面、頭、頸、胸部打撲症ならびに挫創および門歯破損、第七肋骨骨折)をうけたことは前認定のとおりであり、<証拠>によると、原告は本件事故当時三五才の健康な男性で、前記のようにタクシーの運転業務に従事し、その妻とともに未成年の子二人を養育していたものであるが、右の受傷により昭和四三年四月頃現在においても、顔面創瘢痕、とくに口唇部瘢痕の障害および多少の咀嚼障害の遺存になやまされており、また、本件頭部打撲等に基因する頭痛、めまい等になお苦しめられていることを認めることができ、これに反する証拠はない。

(9) 右<証拠>を合わせ考えると、原告主張の同9のとおり原告が休職を命ぜられ、原告がこの休職期間である三年間中少くとも月平均一万二、五〇〇円の時間外手当、休日出勤手当等の支給をうけることができないことが認められ、これを左右すべき証拠はなく、これの三年間分は四五万円になるところ、これから年五分の割合による中間利息を次のホフマン式計算により控除した金額(すなわち、本件にあつては遅延損害金の請求の起算点を昭和四二年五月においているから、これを基準時とし、昭和四二年二月分から同年四月分までの三カ月分の支給額三万七、五〇〇円プラス一カ月間の支給額一万二、五〇〇円に同年五月分から昭和四五年一月分までの三三月に照応する月別法定利率による単利年金現価総額係数30.9を乗じた金額三八万六、二五〇円の合計金額)四二万三、七五〇円が右の支給をうけることができないことによる原告の逸失利益の損害というべきである。

(10) 右<証拠>を合わせ考えると、原告主張の同10のとおり、原告が昭和四一年九月分から昭和四五年一月分まで一カ月につき三〇〇円の家族手当の増額の支給をうけることができないことが認められ、これを左右すべき証拠はなく、これの右期間四一カ月分(原告主張の四三カ月分は誤算である)は一万二、三〇〇円になるところ、前同様これから同割合による中間利息を次のホフマン式計算により控除した金額(前同様、昭和四二年五月を基準時とし、昭和四一年九月分から昭和四二年四月分までの八カ月分の支給額二、四〇〇円プラス一カ月間の支給額三〇〇円に同年五月分から昭和四五年一月分までの三三月に照応する前記係数30.9を乗じた金額九、二七〇円の合計額)一万一、六七〇円が右の支給をうけることができないことによる原告の逸失利益の損害というべきである。

(11) 右<証拠>によると、原告主張の同11のとおり、原告が昭和四二年四月分から昭和四五年一月分まで一カ月につき四、〇五〇円の給料増額の支給をうけることができないことが認められ、これを左右すべき証拠はなく、これの右期間三四カ月分(原告主張の三三カ月分は明白な違算と認めて訂正する)は一三万七、七〇〇円になるところ、前同様これから同割合による中間利息を次のホフマン式計算により控除した金額(前同様昭和四二年五月を基準時とし、同年四月分の支給額四、五〇〇円プラス一カ月間の支給額四、〇五〇円に前同様前記係数30.9を乗じた金額一二万五、一四五円の合計額)一二万九、一九五円が右の支給をうけることができないことによる原告の逸失利益の損害というべきである。

(12) <証拠>によると原告主張の同12を認めることができ、これに反する証拠はない。

(13) 原告主張の同13については、昭和四五年二月一一日頃以後の原告の本件事故による症状がどのようになるのか、とくに、原告の労働能力は回復しないのか、回復するとしてもいつ、どの程度回復するのかにつき前記(8)掲記の各証拠によつてもこれを認定又は推認するに足りないし、他にこれを認むべき証拠がないから、同日頃以後二〇年間原告の労働能力が少くとも半減することを前提とする同13はその他の点を詮索するまでもなく、これを認めることができない。しかしこのことは同日頃の後に前記(8)に認定した頭痛、めまい等の原告の症状が全治する確証があるということを意味するものでないことは多言を要せず、かつ、将来自己の症状がどうなるかにつきはつきりしないこと自体原告にとつて不安でありこれにより原告が精神的苦痛をうけることは見やすい理であるから、これらの事悲は後記慰藉料の評価に当つて充分に斟酌されるべきである。

(14) 原告主張の同16については前記(8)掲記の各証拠によると同16(すなわち、原告が同16で主張するような損害を蒙つたこと、これが本件事故と相当因果関係にある損害であること)を認めることができ、これに反する証拠はない(尤も、同16の(イ)ないし(チ)の合計金額は四万七、二〇〇円となるのに、原告は、これを三万六、〇〇〇円と主張するが、原告の右主張はこれを内金請求とみる余地があるので、そのようにみることにし、そうするとき原告の被告勝寿に対する同16の主張は理由があり、また、原告は被告幸重に対してはいわゆる物的損害たる同16の(ヘ)および(ト)を主張することができず、この主張は理由がないが、同(ヘ)および(ト)を除いてもその余の同16の損害合計額が原告の右の内金請求額三万六、〇〇〇円を上回ることが明らかであるので、原告の被告幸重に対する同16の主張も右のとおり内金請求として結局理由があるに帰する)。

(15) 右(9)の四二万三、七五〇円、(10)の一万一、六七〇円、(11)の一二万九、一九五円、(14)の三万六、〇〇〇円以上の各損害の合計額から原告が同14でその受領を自認する障害補償給付一九万一、六六〇円を差し引いた四〇万八、九五五円が原告の財産的損害というべきところ、これは前記(6)の理由により過失相殺されるべきであるから、これからその二割を減額し、結局三二万七、一六四円が原告においてその賠償を請求しうべき財産的損害というべきである。

(16) 原告主張の同15の慰藉料について考えるに、原告は本訴においてその慰藉料として三〇万円を請求する。

ところで、一般に裁判所による精神的損害の評価額が原告のそれの評価主張額をこえる場合には、裁判所によるその評価額に他の財産的損害の額との合計の認容総額が原告の請求総額を上回わらないかぎり、裁判所は原告による精神的損害の評価主張額にとらわれることなくこれをこえて原告の精神的損害を評価し、かつ、そのように評価したものを認容しても差し支えないと当裁判は考える。けだし、一般にわが民事法上不法行為は特定の人に向けられた(故意又は、過失による)違法な行為として把握し、特定することが必要であり、かつ、それで充分であると考えられ、従つて、また、これに照応して不法行為による損害賠償の訴訟物の個数も右の基準によつてとらえていくことに何ら不都合はないと考えられる(つまり、たとえば、ある特定の違法行為により特定の人の蒙つた財産的損害と精神的損害との区別は、一つの不法行為より生じる、従つてまた一つの訴訟物の内部における損害の算出ないし評価方法の区別にすぎないとみるわけである)のであるから、裁判所による認容総額において原告の請求総額をこえないかぎり、裁判所が原告主張の慰藉料の額をこえてこれを評価、認容しても、もとより民訴一八六条違反の問題はおこりえないし、慰藉料についての「事実上」の主張がなされているとみられるかぎりいわゆる狭義の弁論主義の違反の問題もおこりえず他にこの評価、認容の方法を不当とする理由はないと解されるからである(ただし、認容総額が請求総額をこえない場合であつても、財産的損害の損害費目相互間の、又は精神的損害から財産的損害への損害額の「わく」の融通の問題はおのらずか別問題である。というのも、財産的損害についてはその立法論的当否はしばらくおき、現在におけるような算定方式に従うかぎり、その損害の特定のために、従つてその損害についての争点の決定のために、その損害の算定根拠とその額とについての主張の明確化の要請がさけられず、その意味でいわゆる狭義の弁論主義の制約が働き、従つて右のような場合における「わく」の融通はこれを認めることが困難である。尤も、この場合でも訴訟物に関してのみ生じうる民訴一八六条違反の問題はもとよりおこりえない)

そこで本件についてみるに、(前記説示、認定による)被告勝寿の本件不法行為の程度および態様、原告の蒙つた傷害の種類および性質、とくに前記(8)認定の症状等により原告が精神的肉体的苦痛をうけている状態ならびに前記(13)の説示の事情、その他諸般の事情を考量し、かつ、その事情の一つである前記(6)説示の原告の過失の事情を充分に斟酌するとき原告が本件受傷によりうけた精神的損害に対する慰藉料の額はこれを一〇〇万円と評価し、これを認容するのが相当であると考えられる。(海老塚和衛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!